「うちは地味な製造業だから、発信しても意味がない」。中小の製造業の方から、よくいただくお声です。BtoBで、しかも現場仕事。発信とは縁遠いと感じていませんか。
しかし、その「地味な現場」を武器に成果を出した町工場があります。TikTokで採用を変えた三陽工業と、技術メディアで受注を伸ばした東海バネ工業です。2社に共通するのは、現場そのものを発信の素材にしたこと。専門性が高いからこそ、競合の少ない場所で見つけてもらえました。
本記事では、2社が何をしたのか、なぜ成果が出たのかを分解します。あわせて、中小製造業がスマホ1台から発信を始める手順まで整理しました。「現場が宝になる」発信のヒントになれば嬉しく思います。
中小製造業の発信ノウハウをハッシンラボで
この事例から中小製造業が学べること
結論からお伝えします。学ぶべきは「動画で採用、記事で受注」という二本立ての発想です。目的によって、効く発信の形は変わります。人柄を伝える動画は求職者に、技術を語る記事は取引先に響くのです。
特別な機材や広告費は要りません。むしろ、唯一無二の現場を持つ製造業ほど有利でしょう。大切なのは、地味だと思っている日常を「素材」として捉え直すことです。私たちが中小企業の発信を支援する現場でも、製造業の強みは「現場にある」と感じています。
結論:製造業は動画と記事を使い分ける
2社が示したのは、「目的でチャネルを分ける」という知恵です。同じ発信でも、採用と受注では届けたい相手が違います。相手が違えば、響く形も違うのです。
採用したいなら、社風や人柄が伝わる動画が効きます。受注したいなら、技術力や課題解決を語る記事が効きます。三陽工業は前者を、東海バネ工業は後者を選んでいます。自社の目的に合わせて、武器を選ぶ。この使い分けが、成果への近道になります。
なぜ今、製造業の発信が効くのか
製造業の発信は、今こそ追い風が吹いています。理由は2つ。まず、専門性が高いテーマは競合が少ないこと。次に、現場という独自の素材を持っていることです。
派手な業界では、発信が飽和ぎみ。私たちが製造業の発信を支援する際も、まず現場のどこに『驚き』があるかを一緒に探します。一方、製造業の情報は、まだまだ希少です。「こんなものまで作れるのか」という技術は、検索でもSNSでも目を引きます。希少な情報は、それだけで見つけられやすい。製造業の地味さは、裏を返せば強みなのです。
何をした会社か|2つの町工場の発信
ここで紹介するのは、規模の大きくない2社です。大企業のような広告予算はありません。それでも、発信の工夫で大きな成果を上げました。具体的に見ていきましょう。
製造業の発信は「動画=採用」「記事=受注」
目的に応じてチャネルを使い分けた2社
三陽工業
チャネル:TikTok(おじさんTikTok)
内容:現場の人柄・社風を発信
目的:採用の強化
東海バネ工業
チャネル:オウンドメディア「ばね探訪」
内容:取引先のものづくりを発信
目的:受注を伸ばす
三陽工業——「おじさんTikTok」で採用を強化
三陽工業は、研磨や製造派遣を手がける会社です。2021年、人材戦略部の中高年社員が、TikTokを始めます。歌やダンス、一発芸といった、肩の力が抜けた動画です。通称「おじさんTikTok」として、広く親しまれる存在に。
狙いは、新卒採用との連携にありました。固い会社案内では、若者に会社の雰囲気は伝わらないもの。一方、おじさん社員が楽しそうに踊る動画は、社風をそのまま映し出します。「この人たちと働きたい」。そう感じてもらうための、等身大の発信。それが狙いでした。
東海バネ工業——技術メディア「ばね探訪」で受注を伸ばす
東海バネ工業は、一品一様のばねを作る会社です。2008年と早い時期に、オウンドメディア「ばね探訪」を立ち上げました。特徴は、自社製品の宣伝をごく一部にとどめている点です。
代わりに発信するのは、取引先のものづくりへの取り組みです。JR東日本など、さまざまな企業の現場を掘り下げて紹介します。一見、自社の宣伝になりません。しかし、ものづくりへの深い理解と姿勢が伝わり、「この会社になら任せられる」という信頼を育てたのです。
なぜ成果が出たのか|現場が最強の素材になる仕組み
2社の成功には、共通する理由があります。現場そのものを、発信の素材にしたことです。その仕組みを分解してみましょう。
現場が最強の素材になる3つの理由
1. 現場は唯一無二の素材
職人の手仕事や技術は、当事者の「当たり前」が社外では「驚き」に。飾らない現場が最強の素材。
2. 専門性が高い=競合少
ニッチな技術ほど語れる会社は少なく、検索やSNSで上位を取りやすい。専門性は発信資産。
3. 採用と受注で使い分け
届けたい相手で形を変える。動画は求職者に、記事は取引先に深く届く。
現場の日常や技術が、唯一無二の素材になる
製造業の現場には、ほかにない素材が眠っています。職人の手仕事、巨大な機械、緻密な技術。どれも、外から見れば新鮮で面白いはず。当事者にとっての「当たり前」が、社外では「驚き」に変わります。
三陽工業の動画も、特別な演出はありません。社員の素の姿が、そのまま魅力になっています。東海バネ工業の記事も、現場の取り組みを丁寧に綴っただけ。飾らない現場こそが、最強のコンテンツになりました。素材は、すでに自社の中にある。探すまでもありません。
専門性が高いほど競合が少なく上位を取りやすい
製造業の強みは、その専門性の高さにあります。ニッチな技術ほど、語れる会社は限られます。つまり、競合が少ないのです。発信すれば、検索やSNSで上位に立ちやすい。これは見逃せない利点でしょう。
たとえば「特殊なばねの作り方」を語れる会社は、世の中にわずかです。だからこそ、その情報を求める人に、まっすぐ届く。広く浅い情報は埋もれる一方、狭く深い専門情報は際立ちます。専門性は、製造業が持つ最大の発信資産でしょう。
採用と受注で、チャネルを使い分ける
2社の賢さは、目的に応じて手段を変えた点にあります。三陽工業は、採用を狙ってTikTokを選びました。若者に届き、人柄が伝わる場だからです。東海バネ工業は、受注を狙って記事を選びました。じっくり技術を伝え、信頼を築ける場だからです。
このように、目的と相手を見極めて発信の形を選ぶ。これが、成果を分ける鍵になります。採用も受注も両方ほしいなら、両方の発信を持てばよい話。一つの形にこだわる必要はないでしょう。
数字で見る成果
2社の発信は、数字にもはっきり表れています。採用でも受注でも、確かな成果が出ている点に注目してください。
2社の発信が生んだ成果
三陽工業(採用)
フォロワー5万人超
おじさんTikTok
内定8人中3人
2022新卒・TikTok経由
東海バネ工業(受注)
16年以上 継続
「ばね探訪」2008年〜
毎年新規100社
累計取引先4500社超
三陽工業——フォロワー5万人超、内定者の一部がTikTok経由
三陽工業のTikTokは、フォロワー5万人を超える人気アカウントに育ちました。製造業の採用動画としては、異例の規模でしょう。そして、その効果は採用にまっすぐ直結します。
2022年の新卒採用が象徴的でした。内定者8人のうち3人が、TikTokをきっかけに応募しています(出典:三陽工業 PR TIMES)。実に、3分の1以上です。広告費をかけずに、若者が自ら集まる仕組みができあがりました。「おじさんの踊り」が、立派な採用戦略になったのです。
東海バネ工業——16年継続、毎年新規100社・累計4500社超
東海バネ工業の「ばね探訪」は、2008年の開設から16年以上続く長寿メディアです。長く続けたからこそ、信頼が積み上がりました。その成果は、受注という形ではっきり表れています。
同社では、毎年100社もの新規顧客が生まれ、累計の取引先は4500社を超えました(出典:広報会議)。自社を売り込まない発信が、かえって信頼を呼んだのです。技術への姿勢を語り続けることが、安定した受注につながったのです。
現場を武器にする発信の型を一緒に身につけませんか
事例とともに基礎からお伝えします。
自社に応用する|中小製造業が今日から始める3ステップ
ここからが本題です。2社の発信は、特別な設備がなくても再現できます。スマホと現場の知見があれば、今日から始められます。3つのステップに整理しました。
中小製造業が今日から始める3ステップ
1
採用なら、スマホで現場動画を撮る
高価な機材は不要。現場や社員の人柄を等身大で。完璧さより親しみやすさが応募の決め手。
2
受注なら、技術ノウハウを記事にする
「こんな課題も解決できる」を言葉に。売り込みすぎず、ものづくりへの姿勢を語る。
3
無理なく続ける仕組みを先に決める
月1本でも継続が力に。担当を決め、撮影や執筆を業務に組み込む。続ける仕組みが成果を左右。
STEP1:採用なら、スマホで現場動画を撮る
採用を強化したいなら、まず現場の動画です。高価な機材は要りません。スマホで、現場の様子や社員の人柄を撮りましょう。三陽工業のように、肩の力を抜いた等身大の動画で十分です。
大切なのは、完璧さより親しみやすさです。職人の手仕事、休憩中の雑談、社員の素顔。求職者が知りたいのは、「どんな人と働くか」でしょう。飾らない日常こそが、応募の決め手になります。SNS採用の進め方は中小企業のSNS採用もご覧ください。
STEP2:受注なら、技術ノウハウを記事にする
受注を伸ばしたいなら、技術の記事です。自社が培ってきた技術や、対応できる難しい仕事を言葉にしましょう。「こんな課題も解決できる」と示せば、同じ悩みを持つ企業が見つけてくれます。
東海バネ工業のように、取引先の取り組みを掘り下げるのも一手です。自社を売り込みすぎず、ものづくりへの姿勢を語る。その誠実さが信頼を生みます。専門用語には説明を添え、初めての人にも分かるように書きましょう。
STEP3:無理なく続ける仕組みを先に決める
最後に、続ける仕組みを整えます。製造業は、本業が忙しいものです。気合だけで始めると、すぐに更新が止まりがち。だからこそ、無理のないペースを先に決めましょう。
月1本でも、続ければ確実に積み上がるもの。東海バネ工業も、16年の継続で信頼を築きました。担当を決め、撮影や執筆を業務に組み込むことが肝心です。続ける仕組みが、最終的な成果を左右します。発信を資産に育てる考え方は業種別の発信成功パターンもご覧ください。
つまずきやすい点・注意点
最後に、始める前に知っておきたい注意点をお伝えします。製造業の発信は、機密と完璧主義に気をつける必要があります。落とし穴も理解しておきましょう。
製造業の発信「失敗」と「工夫」
| やりがちな失敗 | うまくいく工夫 |
|---|---|
| 機密まで写してしまう | 公開してよい範囲を社内で先に決める |
| 完璧な動画・記事を目指す | まず素朴でも一本出す |
| 気合で始めて止まる | 無理なく続く仕組みを先に決める |
機密と公開の線引きを決める
まず大切なのが、機密への配慮です。現場を撮ると、図面や特殊な工程が写り込むことがあります。取引先との守秘義務に関わる場合も少なくありません。何を見せ、何を見せないか。この線引きを、社内で先に決めておきましょう。
東海バネ工業も、取引先の事業を紹介する際は、相手の了解を得ています。安心して発信を続けるには、ルールが欠かせません。迷ったら、公開しない。その慎重さが、信頼を守ります。守るべきものを守った上で、自由に発信することが大切です。
完璧を求めず、まず出してみる
もう一つの注意点が、完璧主義です。「立派な動画でないと」「文章が下手だから」と、なかなか踏み出せない方は多いものです。しかし、完璧を待っていては、いつまでも始まりません。
三陽工業の動画も、プロの作品ではありません。むしろ、その素朴さこそが愛されています。最初の一本は、拙くて当然。出しながら改善すればよいのです。まず公開し、反応を見て磨いていく。その一歩が、すべての始まりになります。発信の進め方に迷ったら、ハッシンラボ Premiumの個別相談もご活用ください。あわせてオウンドメディアの成功事例13選もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 製造業に、発信やオウンドメディアは本当に向いていますか?
向いています。製造業には、現場の技術や日常という唯一無二の素材があるためです。三陽工業はTikTokで採用を、東海バネ工業は技術メディアで受注を伸ばしました。専門性が高いテーマほど競合が少なく、検索やSNSで見つけられやすいのも利点です。地味に見える現場こそ、発信の宝庫になります。
Q2. 「動画は採用、記事は受注」とは、どういう意味ですか?
発信の目的に応じて、チャネルを使い分ける考え方です。社風や人柄を伝える動画は、求職者に響き採用に効きます。一方、技術や課題解決を語る記事は、取引先に響き受注につながります。両方を混ぜるより、目的ごとに最適な形を選ぶほうが、それぞれの相手に深く届きます。
Q3. 撮影や記事制作の専門スキルがなくても始められますか?
始められます。三陽工業の動画も、社員がスマホで撮った素朴なものでした。凝った編集より、現場のありのままが共感を呼びます。記事も、普段の技術や仕事のこだわりを言葉にするだけで十分です。完璧な作品を目指すより、まず一本出してみることが大切です。
Q4. 技術やノウハウを公開すると、競合に真似されませんか?
心配しすぎる必要はありません。表面的な情報は真似できても、長年の経験や対応力までは簡単に真似できないためです。東海バネ工業も、取引先のものづくりを掘り下げて発信し、信頼を高めました。ただし、本当の機密情報は公開しない線引きを、社内で先に決めておくことが大切です。
Q5. 成果が出るまで、どれくらいかかりますか?
発信の種類によりますが、半年から数年の継続が目安です。東海バネ工業の「ばね探訪」も、16年続けて信頼と受注を積み上げました。一夜で成果が出るものではありません。だからこそ、無理なく続けられるペースを先に決めることが、製造業の発信を成功させる条件になります。
最初の一歩を一緒に考えませんか
その素材の見つけ方を、御社の状況に合わせてご相談ください。