「検索で上位に出るためのコンテンツ」と「自社らしさを伝えるコンテンツ」、どちらを優先すべきか。多くの中小企業の担当者が悩むこの問いに、ひとつの明確な答えを示した企業があります。ホームセンター大手・カインズが運営するオウンドメディア(自社メディアのこと)「となりのカインズさん」の編集長・与那覇一史氏の言葉が、今コンテンツ担当者の間で注目を集めています。SEOと自社ブランディングのバランスこそが、長く愛されるメディアをつくる核心です。
「検索数が多くても、書かない記事がある」
カインズの「となりのカインズさん」は、2020年の創刊から約1年で月間400万PVを達成した成功事例として知られています。
SEOのビッグワードを「あえて」狙わない判断
与那覇氏が前職のソウ・エクスペリエンス株式会社で得た学びとして語るのが、SEOとブランドの関係です。
SEOとは「検索エンジン最適化」のことで、Googleなどで検索したときに自社サイトが上位に表示されるよう工夫することを指します。特に「ランキング」のようにたくさんの人が検索するキーワードは、SEOの観点から見ると非常に魅力的です。
しかし与那覇氏は、こう語ります。「自社商品をランキングにすることが自社の世界観に合わないと思えば、ビッグワードも狙いません」と。検索数の多さよりも、自社の世界観を守ることを優先する——この判断が、ブランドへの信頼を積み上げていきます。
自社の世界観に合っているか?
長期的に積み上げるための戦略的選択
数字だけを追うと、「つまらないメディア」になる
与那覇氏は別のインタビューでも、こう述べています。「販促計画やECサイトの売上に従って掲載商品を決めてしまうと、果たして読者が本当に求めているものなのかと疑問が湧く」と。
数字を追うことは大切です。ただ、数字だけを優先すると、ブランドの「らしさ」は少しずつ薄れていきます。その結果、競合他社と区別のつかない、読者に刺さらないコンテンツになってしまうのです。
人を動かすのは「数字」より「人間味」
「となりのカインズさん」がここまで支持されている理由は、コンテンツに書き手の個性がにじみ出ているからです。
「書き手のフェチ」がコンテンツの熱量を生む
与那覇氏のマネジメントで重視しているのが、「書き手の人間味を最大化すること」です。たとえば、スリランカカレーのスパイスを自宅で育てるメンバーがその体験を記事にする——こうした「フェチ(熱狂的なこだわり)」を持った書き手の記事は、読者の心にも熱量が伝わります。
与那覇氏は「編集者の熱量やフェチの度合いが強ければ、ターゲット層からやや外れた企画でもGOサインを出す」と語っています。このアプローチは、企業のオウンドメディアが「単なる情報プラットフォーム」に成り下がるのを防ぐ、重要な考え方です。

「個の強み」を活かすマネジメントとは
与那覇氏が注力するのは、メンバー一人ひとりの「得意」や「好き」を最大化するマネジメントです。会社の都合で書くコンテンツと、編集者のこだわりを存分に表現するコンテンツ、この両方のバランスを保つことが、メディアの生命力につながると考えています。
コンテンツに「人格」が宿るとき、読者はそのメディアのファンになります。ファンになった読者は継続的に訪れ、その積み重ねがブランドの資産になっていきます。これは、中小企業のコンテンツマーケティングにも直接応用できる考え方です。
中小企業こそ「ブランドの声」を大切にすべき理由
大手企業と違い、中小企業は広告費で勝負することが難しい場面があります。だからこそ、コンテンツが大きな武器になります。
「らしさ」が競争優位になる時代
Web担当者Forum(2026年2月27日付)が伝えたこの事例は、コンテンツマーケティング界隈で広く注目されました。特に「SEO数値だけを追うのではなく、ブランドの声をコンテンツで伝える」というアプローチは、大手企業だけの話ではありません。
中小企業の場合、社長や現場スタッフの言葉そのものが「ブランドの声」になります。社長インタビュー、現場のリアルな声、商品開発の裏側——こうした「その企業にしか語れないコンテンツ」は、SEOの面でも独自性を発揮し、AI検索(ChatGPT、Geminiなど)にも引用されやすいコンテンツとなります。
「蓄積型発信」との親和性
「となりのカインズさん」が創刊から3年で累計1億PVを超えた背景には(Web担当者Forumミーティング2023年秋時点のデータ)、一時的なバズを狙うのではなく、長期的に価値を積み重ねてきたことがあります。これはまさに「蓄積型発信」の考え方と一致します。
蓄積型発信とは、短期的な注目よりも企業の信頼を少しずつ積み上げる発信のスタイルです。1本1本のコンテンツが企業の資産となり、時間が経つほど効果を発揮します。中小企業が取り組むコンテンツマーケティングにおいて、最も持続可能で効果的なアプローチです。
安定成長
すぐに低下
まとめ
カインズ「となりのカインズさん」の事例から見えてくるのは、SEOとブランディングは対立するものではなく、バランスを取りながら共存できるということです。
ただし、そのバランスを守るには「検索数が多くても、自社らしくなければ書かない」という意思決定の軸が必要です。数字だけを追うのではなく、書き手の人間味を活かし、企業の世界観を一貫してコンテンツで伝え続けること——これが、長く読まれ、ファンをつくるメディアの本質です。
中小企業のコンテンツ担当者の方にとって、この考え方は明日から実践できるヒントになるはずです。「自分たちらしさとは何か」を改めて整理し、そこを軸にコンテンツを積み上げていきましょう。
よくある質問
Q. SEOとブランディングはどちらを優先すればいいですか? A. 正解はどちらか一方を選ぶことではなく、両者のバランスを取ることです。カインズの事例では、SEO上のメリットがあっても、自社の世界観に合わないコンテンツは制作しないという方針をとっています。まず自社の「らしさ」を言語化した上で、その軸に合うキーワードを選ぶ順番がおすすめです。
Q. 書き手の個性を活かすとはどういうことですか? A. 書き手が「好き」「詳しい」「こだわりがある」テーマで書いた記事は、読者にも熱量が伝わりやすくなります。会社の都合だけで決めたテーマではなく、書き手自身が面白いと感じているコンテンツこそが、読者の心を動かします。そのため、担当者の得意分野や興味を最大限に活かす編集方針が重要です。
Q. 中小企業でもカインズのような成功事例は再現できますか? A. 規模は違っても、コンテンツで「企業の声」を伝えるアプローチは中小企業でも十分に実践できます。社長インタビューや現場スタッフのリアルな声など、大企業にはない「その企業にしか語れないコンテンツ」を積み上げることが、中小企業ならではの強みになります。
Q. オウンドメディアの効果はどのように測ればいいですか? A. PV(ページビュー)などの数値は参考にしつつ、「ブランドへの問い合わせが増えた」「採用応募の質が変わった」「取引先から声をかけてもらった」といった定性的な変化も大切な指標です。与那覇氏も「数字データは取りながらも、一喜一憂しない」と語っており、長期的な視点での評価が重要です。
Q. コンテンツに「人間味」を出すにはどうすればいいですか? A. まず書き手(または話し手)が「自分の言葉で語る」ことが第一歩です。専門用語や会社のテンプレ文句ではなく、実際に感じたことや体験談を盛り込むと、読者はぐっと引き込まれます。経営者インタビューであれば、事業への思いや失敗エピソードを正直に語ることが、コンテンツに人間味をもたらします。